日誌

田上教育長日誌

「デジタルが主で、アナログは従」という発想の転換

 
 去る6月19日(火)に議会が閉会しました。今回の議会では6月の補正予算も審議され、教育委員会関係ではICT教育の予算が可決されました。これにより、小中学校の全ての普通教室、特別支援教室、理科室に1台ずつ電子黒板が設置されることになります。また、次年度までには、小学校の学級担任と中学校の教科担任に1台ずつタブレットを配布するとともに、児童生徒分として、小学校ではパソコン教室のパソコンを児童1クラス分のタブレットに入れ替え、中学校ではパソコン教室のパソコンの他に生徒1クラス分のタブレットを配備します。さらに教員へのタブレット配布に併せて、デジタル教科書の導入も進めていきます。
 このようにICT機器を完備し学習環境を整えるのは、何を隠そう授業を変えるためです。が、一抹の不安もあります。それは、言うまでもありませんが、大きな予算を投入したにもかかわらず、活用が十分されないということです。
 かつて、中学校にはどこの学校にもLL教室というのがありました。主に英語学習で使うのですが、アナライザーも設置されており数学の授業などでも使うことができました。設置には相当の予算が必要だったと思います。しかし、ほとんど活用されず、宝の持ち腐れとなってしまいました。これは典型的な例としましても、学校では得てしてこの傾向にあります。それは、「授業は黒板とチョーク」というアナログ的考えが根強くあるからです。
 だからこそ、同じ轍は踏んではいけないのです。そのためには、全ての教師が「デジタルが主で、アナログは従」という発想の転換が必要です。つまり、従来ならば「授業のどこでICTが使えるか」という発想でICT教育を考えていたものを、ICTで授業を行うことを前提として、どうしても黒板を使った方が効果があるというところだけは黒板を使うという「授業のどこで黒板が使えるか」という考え方に変えなければならないのです。
  文部科学省も、新学習指導要領の全面実施に向けて、学校のICT環境の整備を進めていくことが喫緊の課題としています。2020年から導入されるデジタル教科書は、現時点では紙の教科書とデジタル教科書の併用としていますが、いずれ必ずデジタル教科書が必須となり、ICTを活用した授業が主流となることは間違いありません。今回のICT機器の導入は、本市において時代を先取りする絶好の機会と捉えています。そのためには、電子黒板やタブレットを使ったデジタル授業が主で、黒板とチョークのアナログ授業は従という発想の転換が絶対的に必要だと考えます。

校長のリーダーシップとは

5月21日(月)に真岡市小中学校長会があり、校長のリーダーシップについて次のように話しました。

 校長にはリーダーシップが大切であるというのは当たり前のことです。ならば、リーダーシップとは何でしょうか。実はリーダーシップの定義は学者の数だけあると言われ、一つに確定するのは難しいのです。時のリーダーの置かれた環境や立場、やるべきことがそれぞれ異なることから、様々なリーダーシップの定義が生まれるのは至極当然のことです。だとしたら、「校長のリーダーシップ」はどう定義したらよいのでしょうか。
  独立行政法人教員研修センター(現:教職員支援機構)の組織マネジメント研修では、「目標・経路理論」というのを取り上げています。これは「優秀なリーダーは、集団が目標に向かって活動する過程で、直接働きかけて集団のまとまりや個々のメンバーのやる気を促すに留まらず、到達地点を定め、そこに至る道筋を明確にし、仕事のしくみや構造を創り出す」というものです。この理論は、校長がリーダーシップを発揮する上で、何をやるべきかを明確に示しています。それは次のように捉えることができるからです。
 先ずは「方向性を示す」ということです。理論では「到達地点を定め、そこに至る道筋を明確にし」とあります。これはリーダーとして絶対的なものであり、組織が向かう方向をスローガンや合い言葉で簡潔に表すことも大切です。また、問題等の発生時には、解決に向けた方向性を的確に示していくことがリーダーには求められます。
 次に「環境を整える」ということです。理論では「仕事のしくみや構造を創り出す」とあります。これは、組織目標を達成するために、必要な組織づくりや体制づくりをすることです。リーダーは「舞台を作る」と言われていますが、それはこのことです。
 そして「積極的に働きかける」ということです。理論では「直接働きかけて集団のまとまりや個々のメンバーのやる気を促す」とあります。職員を把握し、適宜・適切な働きかけをすることがリーダーには欠かせません。
  マネジメントが校長が担う機能であるのに対して、リーダーシップは校長の行う行為そのものです。ならば何をするかがリーダーシップで、「方向性を示す」「環境を整える」「積極的に働きかける」という具体的行動を知っていなければ実行はできません。

次代の校長・教頭を育てることが課題

 平成30年度がスタートしました。本市では3月末をもって4つの小学校が閉校になったため、小・中学校合わせて23校でのスタートとなりました。4月4日の市小・中学校長会総会では、これからの芳賀地区の管理職の状況を考え、次のように話しました。
             
             次代の校長・教頭を育てなければならない

 前回の教育長室だよりでは、校内人事の視点から人材育成の重要性について述べました。実は、「人材育成」と言いましても、現在の職務に必要な資質能力を身に付けさせることと、将来的に必要な資質能力を身に付けさせることの2通りの人材育成があるのです。
 例えば、授業力の向上を目的として行う授業研究会は、現在の職務に必要な資質能力を身に付けさせるものですから、前者に当たります。これに対して、将来の管理職候補としてのリーダー育成は後者に当たります。特にリーダー育成は、本来、人材を「選抜」することから始めますから、全ての教職員を対象とするわけではありません。つまり、「人材育成」と言っても、教職員を育てることとリーダーを育てることは異なるということです。
  大量退職・大量採用の真っ只中にある芳賀地区におきましては、全ての教職員がその職務を遂行する上で必要な資質能力を身に付けさせることと併せて、リーダーの育成も不可欠になってきています。
 芳賀地区の今後3年間に退職する校長・教頭の人数と、それに伴って誕生する新任校長・教頭の人数を見ますと、この3年間では、新任校長36名、新任教頭45名、合わせて81名の管理職が新たに誕生することになります。校長においては、3年間で43名中36名が新任校長に入れ替わることになります。ということは、現在の教頭と教務主任、あるいは主任層の中から、この3年間に81名の先生が校長・教頭として昇任されることになります。
  ところが学校では、教職員の資質能力の向上を目指し、校内研修の充実は図られているものの、リーダーの育成には意識が薄いのが現状です。したがって、次代の校長・教頭となるリーダーの育成がこれからの大きな課題と言えます。そのためには先ずは、対象者への意識付けを図らなければなりません。そして、これまでのような、対象者が研修や上司の姿勢から学ぶリーダー育成のスタイルに加えて、校長先生自らがお手元に配布した参考資料等を基に対象者に積極的に働きかけていただき、次代の校長・教頭を育ててほしいと思います。
 <参考資料>『月刊高校教育』2013年6月号「校長は次世代のリーダーをどう育てるか」

 

新指導要領は教室の前で止まっている

 昨年3月に告示された新しい学習指導要領も、1年間の趣旨等の説明を経て、この4月から移行措置期間に入ります。また、「特別の教科 道徳」も小学校でスタートします。学校では、これらの準備は大丈夫でしょうか。    
  かつてから「教育改革は校門の前で止まっている」と言われ、「新指導要領は教室の前で止まっている」と言われています。どんなに教育改革、学校改善と言われていても、学校へ行ってみれば旧態依然のままで、同じような問題が発生し後を絶たない。教室を覗いてみれば、なんら変わり映えのしない通り一遍の授業が行われ、新指導要領の「し」の字も感じられない、という状況を揶揄した言葉です。これは極端に書いたのですが、あながち言い過ぎとも言えないかもしれません。
  それは、合同訪問の際に学校経営概要を見せてもらいますと、新課程になっても文言が旧課程のままという学校も散見します。そういう学校は授業も同様で、新課程の趣旨に沿った授業が展開されていないことがほとんどです。
 それに今回は心配なこともあります。昨年の夏休みの中堅教員研修会では、新指導要領作成に直接携わった文部科学省の担当官の講話を設定しましたが、その必要性を否定するような酷評が複数ありました。これからの芳賀の教育を担う30歳代後半の教員が、告示された4ヶ月後に、普段聞くことができない文部科学省の、しかも、その作成に携わった担当官の話に価値を見出せないという体たらくでは、先が思いやられます。
  今回の学習指導要領は、従来にも増して大きな改訂と言えます。これからの21世紀を生きる子供たちに必要な資質・能力を身に付けさせるために、これまでの教科内容重視の構成から、育てたい資質・能力まで言及し、その方法も示しています。資質・能力は本来、教科の枠を越えて横断的・総合的に育むものですから、これまで以上にカリキュラム・マネジメントが重要になってきます。また、子供たちに生きて働く力となって身に付くよう、「主体的・対話的で深い学び」を通した授業改善も求められています。
 では、「主体的・対話的で深い学び」はどのような授業展開になるのでしょうか。ちょっと前までは「アクティブ・ラーニング」と言い、グループ学習が頻繁に行われていましたが、それでよいのでしょうか。等々、新指導要領の趣旨を理解し実践に至るまでには距離があるのではないでしょうか。このようなことを踏まえ、各学校における移行期への準備を宜しくお願いします。

立志を迎えた皆さんへ

 立志を迎えた中学2年生の皆さん、そして保護者の皆様、おめでとうございます。
 立志式とは、武士の社会で行われていた「元服」の儀にちなんで、14歳になったことを祝う式のことです。元服とは、奈良時代以降、成人を示すものとして行われる儀式のことで、通過儀礼の一つになっていました。つまり、この時代では、14歳になると大人の仲間入りをしたということになります。現代では20歳に行われる成人式が大人の仲間入りをする儀式ですから、「立志」とは文字通り「志を立てる」ことであり、この時期に立志を迎える意義は大きいのです。
 と言いますのは、14歳という時期は、3年生への進級を控え、自分の進路や生き方について、これまでを振り返り、これからどのように生きるか、新たに誓いを立てることが必要な、節目となる時期だからです。ですから皆さんは、それぞれが立志の誓いとして、将来の夢や希望を真剣に考えて「誓いのことば」に表したと思います。そして、式では堂々と発表されたと思います。
 元東京大学の総長で、政治学者であった南原繁(なんばら しげる)氏は、「夢や理想は単なる抽象的な概念ではない。必ず実現の力となって働くものだ」と言っています。つまり、夢や理想を持つこと自体に意味があって、それは実現の原動力となるからだと言っているのです。
 皆さんが生きるこれからの21世紀は、一層情報化やグローバル化が進むと思われます。
変化の激しい、先行き不透明な時代とも言われています。そのような中だからこそ、大きな夢をもち、高い理想を掲げ、その実現のために強い意志をもってやりぬいていただきたいと思います。意志あるところに道は開けます。皆さんの輝かしい未来を祝福いたします。
 結びに、保護者の皆様に一言お願い申し上げます
 お子様は、14歳を迎え、思春期前期に入り、人生において最も多感な時期に差し掛かります。この時期は、自発性が高まり、自ら考え、判断し、目標に向かって努力できる時期でもあります。勉強や部活動に、「目標をもってがんばる」という、人生における基本を身に付けることが大切な時期になります。学校ではその基本を身に付けられるよう、勉強や部活動指導を行っております。保護者の皆様にも、一層の学校へのご理解とご協力を賜りますようお願い申し上げ、お祝いの言葉といたします。