日誌

田上教育長日誌

「今が最強!」と言えるように

 偶然なのですが、退職校長会会報第114号(平成30年10月4日)の「今が最強」というタイトルの寄稿文に目が留まりました。それは、元佐野市立天明小学校長の西沢弘先生という方が書かれたものだったのですが、恐らく、瞬時に「退職したのになぜ最強?」という意識が私に働いたからだと思います。
 「公立学校退職後、縁あって私立の中等学校で理科・化学の指導に当たらせてもらっている。種々の要因があり、個人的には理科教員として今が最強である」という書き出しで始まっているその文面には、理科の教員としてのやり甲斐や教えることの楽しさが綴られ、退職後の新たな教師生活での高揚感や喜びが満面に感じられました。
  では、いったいどうして最強なのでしょうか。西沢先生は「種々の要因がある」と言っている中で、第一にICT機器やデジタル教材を挙げ、次のように書いています。

 第一要因は、電子黒板等のICT機器やデジタル教材の進展である。受精卵の卵割など最先端の画像、気象衛星ひまわりの画像は昨日大雨を降らせた雲の動きを、地球全体を捉えた冬至・春分・夏至の画像から地軸の傾きを直接見ることができる。素材選択の幅が広がりこんなに面白いことはない。

 電子黒板等のICT機器やデジタル教材は、使えば使うほどその有用さが実感でき、授業が抜本的に変わってきます。アナログでは到底不可能だったことをデジタルは可能にします。特に理科の授業で、鮮明な画像による動的世界を子供たちに提供できることは、西沢先生にとって至極の喜びだったのでしょう。 
 また、教材研究については次のように書かれていて、理科教員の本分が垣間見えます。

 教材研究に集中して膨大な時間が使えること。調べれば調べるほど疑問が湧き、その疑問が次の疑問に。もう、ワクワクである。

 僭越ですが、読んでいて「やっぱり教師なんだなー!」と痛感した次第です。
 ICTという最強の武器を得て、教材研究に没頭できる時間が十分あって、最高の授業づくりができる今が、西沢先生にとっては最強なんですね。
   現役ではなかなかこうはいかないかと思いますが、ICTという最強の武器はあります。要は時間ですが、時間は与えられるものではなく、自らつくるもの、です。
 本市の先生方誰もが、「今が最強!」と言える充実した教師生活を送れることを期待しております。

「学びの保障」を実現しなければならない

 2学期がスタートして1か月が過ぎました。令和2年度の学校から見れば、6月に学校が再開され、16日間の夏休みを除けば、学校の教育活動は実質3か月間行われたことになります。学校の臨時休業により、子供がいない学校が3か月も続いたことを思えば、この3か月間は、当たり前のことではありますが、学校は「子供のためにある」ということを実感したのではないでしょうか。そして、学校のあらゆる教育活動も子供のためにあることが再認識できたと思います。
 そこで、これからが重要な時期になります。と言いますのは、これまでの3か月間では、授業をはじめ学校行事等の教育活動が見直され、少しずつ軌道修正しながら進められてきました。そして3か月経った現在に至っては、どこの学校でも日常を取り戻し、教育活動も軌道に乗り始めていることと思います。
 この3か月間では、未履修の学習内容は時間を確保して補充したり、系統的な教科は関連する単元の前に指導したりして、未履修の解消を図ってきました。また、授業においては、子供たちの学びを保障するために、教科書の学習内容の扱いに軽重を付けたり、指導順序を変更したり、個人でも学習可能な内容の一部を家庭学習等の授業以外で行うようにしたりして、学習の重点化を図って進めています。
 とはいえ、これまでの3か月間は、何かと制限がある中で学習の遅れを取り戻すために心血が注がれた授業でした。これは致し方ないことであって、子供たちもそれは理解し、懸命に授業に臨んでいたと思います。
  このようなこれまでの状況を踏まえると、いよいよこれからが本番で、子供たちの「学びの保障」を実現していかなければなりません。国においても、「学校・子供応援サポーター人材バンク」を開設して学校支援員を配置したり、補習等のための指導員等派遣事業により学習指導員を配置したりして、学びを保障するための人的支援を行っています。これらは今後順次配置されますので、有効活用するとともに、特に次の3点を重視してこれからの学習指導の充実を図って頂きたいと思います。
 1点目は、小学校では今年度から新学習指導要領が全面実施となっていますが、小・中ともに、なるべく出来る範囲で新学習指導要領の趣旨を踏まえた授業を行ってください。
 2点目は、受験生の不安を払拭するため、中学3年生対象の補習授業を積極的に行ってください。文部科学省が公表した中学3年生のスケジュール案にも週2回の補習授業が示されていますので、実施は不可欠と考えています。 
 3点目は、学習の遅れや学力の差が懸念されますので、学習指導員等を活用し、これまで以上に個別指導の充実を図ってください。

お盆明けだからこそ注意が必要~新型コロナウイルス感染症対策

   8月1日(土)からの短い夏休みも終了し、今日から2学期がスタートしました。今年はいつもの2学期とは異なり、熱中症対策に加えて新型コロナウイルス感染症対策で、学校は細心の注意を払って対応していることと思います。
 幸いにも、これまで本市の小・中学校では、熱中症も新型コロナウイルス感染症も学校から出ていませんでした。しかし、新型コロナウイルス感染症については、本市で連日感染者が確認され、8月14日(金)には本市独自の感染厳重注意報が出される状況にあっては、今後それは難しいかもしれません。特に、夏休み中に迎えたお盆では、外出等を控える傾向はあったものの、人の移動も多く、県外から帰省した家族等で会食や会合が行われたものと思われます。
 お盆の帰省については、県では体調が悪い場合は帰省を控えること、高齢者等がいる家庭では十分配慮すること、大人数での宴会や飲み会は控えることを呼びかけましたが、県境をまたぐ移動の自粛は要請しませんでした。県では、お盆の帰省自体は否定せず、感染防止に十分な配慮を求めたものでした。
 しかしながら、各家庭の受け止めや感染防止対策に差が出てしまうのは当然であり、それはやむを得ないことです。恐らく多くの家庭で、日常と違った人の往来があったことは間違いありません。そうなりますと、お盆明けはこれまで以上に感染拡大が懸念されることになります。となれば、学校は感染防止はもちろんのこと、感染者が出た場合であっても迅速に対応できるよう、次の3点を徹底するなど一層緊張感をもって臨む必要があります。
 1点目は、学校にウイルスを入れない水際対策が極めて重要になります。そのため、子供一人一人の家庭での検温の徹底を再度呼びかけるとともに、サーマルカメラによる検温とその後の適切な対応をお願いします。
 2点目として、これまで同様、うがい、手洗い、手指消毒、熱中症に注意しながらのマスク着用、教室換気、手すりやドアノブの消毒等による感染防止をお願いします。特に、学校におけるクラスターの発生が最も危惧されますので、こういった基本的な感染防止を徹底することが何よりも大切です。
 3点目として、8月6日(木)の臨時校長会での資料により、感染者が出た場合の学校の対応について、教職員と共有化を図っていただき、教職員誰もが共通認識のもとに、迅速に対応できるようお願いします。
  2学期が始まり忙しい中ではありますが、学校と市教委が一丸となってこの難局を乗り越えなければなりませんので、よろしくお願いします。

今こそカリキュラム・マネジメントが必要とされます

 学校が再開されたとはいえ、新型コロナウイルスの感染拡大のリスクがなくなったわけではありません。そのため学校では、教育活動における「3密」を可能な限り避ける工夫をするとともに、検温、マスク着用、うがい、手洗い、アルコール消毒等を徹底するなど、細心の注意を払って感染症対策を行っています。また、感染拡大の第2波、第3波も懸念されますので、不測の事態に備えて、今後どのように教育課程を見直し実施していったらよいか、難しい課題に直面しています。
 文部科学省では、休業期間が長期化し、標準授業時数を下回る地域も予想されることから、今年度在籍している最終学年以外の児童生徒に係る教育課程に関する特例的対応として、今年度指導を計画している内容について学年内に指導を終えることが難しい場合には、次学年又は次々学年に移して教育課程を編成してもよい旨の通知を出しています。(令和2年5月15日付2文科初第265号文部科学省初等中等教育局長通知)
 しかしながら本県においては、どの市町も6月1日(月)から学校再開が可能になったことから、今年度指導する内容については、年度をまたぐことなく当該年度内で指導するよう授業計画を立てることとしています。
 とは言っても、今回の臨時休校により時間がなくなったばかりではなく、感染拡大のリスクを考えて、学校で活動できる場所が制限されたり、活動の中での児童生徒の関わりが制限されたりと、これまでのような教育活動ができない状況にあります。こういった中で、児童生徒の学校生活の質を維持しつつ学びを保障するためには、必要な授業時数を確保するとともに、教育活動を見直し重点化を図ることが不可欠となってきます。
 特に今年度は、小学校で新学習指導要領が全面実施となっています。新学習指導要領に規定されている「何ができるようになるか」(育成を目指す資質・能力)を意識した上で、「何を学ぶか」(指導すべき内容)を明確化し、今般の事態を受けた様々な環境変化を踏まえて「どのように学ぶか」(指導方法)を柔軟に見直すことが求められています。限られた時間と環境の中で、効率的・効果的な教育活動を展開し成果を上げなければなりません。したがって、これからは各学校のカリキュラム・マネジメントが問われることになります。
 これまでも、カリキュラム・マネジメントの重要性は言われてはいましたが、教育活動の中心である各教科のカリキュラムは教科書に基づき整備されており、マネジメントの余地はほとんどありませんでした。しかし今度は違います。教科学習の重点化が不可欠となっている今、教科書の学習内容の扱いに軽重を付けたり、指導順序を変更したり、個人でも学習可能な内容の一部を家庭学習等の授業以外で行うようにしたりして、児童生徒の学びを保障しなければなりません。これがまさにカリキュラム・マネジメントであって、校長先生のリーダーシップの下、各学校の先生方の教科経営力に期待しています。

子供たちに自己防衛意識を醸成する

 政府は5月14日(木)に、新型コロナウイルス特措法に基づき全国に発令していた緊急事態宣言を、一部の都道府県を除いて解除しました。これまでの自粛モードは一変し、まだ感染の脅威はあるものの、世間は少しずつ動き出しています。
 学校もすでに段階的に分散登校を実施するなど、学校再開に向けて準備が進められています。県立高校では学校再開を前倒しし、5月25日(月)からとしました。本市においても、5月13日(水)の臨時校長会や14日(木)の市PTA連絡協議会役員会を経て、本日から分散登校を開始しました。子供が学校に戻ってきたことは喜ばしいのですが、学校は至る所で「3密」の危険性を孕んでいますから、注意しなければなりません。
 福島大学の筒井雄二教授は、「子供は大人と違い、指示がなければ友達と密集してしまう。一層注意が必要である」と、学校に集まる子供たちへの目配りは欠かせないことを指摘しています。(5月15日付下野新聞)
 学校では、これら「3密」を可能な限り避ける工夫をするとともに、検温、マスク着用、うがい、手洗い、アルコール消毒、教室換気等を徹底することが大切です。
 と言いましても、感染リスクは学校だけにあるのではありません。教師の目が届かない学校外のリスクも、もちろんあります。ですから、こういった状況の中で子供たちを感染から守るには、自ら進んで感染予防に努めるようにすることが大切です。むしろ、これから先の子供たちのことを考えれば、子供たちに「自分のことは自分で守る」という、自己防衛意識を植え付けることが不可欠と考えます。
   かつて未曾有の災害をもたらした東日本大震災の時、岩手県釜石市の子供たちは「自分の命は自分で守る」という「津波てんでんこ」の教えで避難し、被害が最小限に抑えられました。後に「釜石の奇跡」と言われ、いかに子供たちの自己防衛意識が大切かを知らせれました。

 しかしながら、平時に自己防衛意識を醸成することは容易ではありません。このコロナ禍では誰もが疲弊し苦しんでいます。しかし、緊急事態宣言が解除され、新たなステージが動き出しています。「ピンチをチャンスに」というフレーズも耳にするようになってきました。学校も、これまで子供たちに身に付けることが難しかった「自分のことは自分で守る」という、自己防衛意識を醸成することができる絶好の機会と捉えることができます。そして、それが実現できれば、まさにピンチがチャンスになったことになるのではないでしょうか。そのためにも、子供たちが学校内外を問わず、正しい感染予防を実践できるように指導していかなければなりません。